プライバシーをハコに入れ、眺望がフタから抜ける平屋の家








本計画は仙台市の高台に位置する、眺望に恵まれた住宅である。敷地は東側が崖に面し、遠くまで視界が広がる反面、東西両側を市道に挟まれることで、プライバシーの確保が大きな課題となった。

そこで設計では、**「閉じながら開く」**という一見矛盾する要請に応答するため、二層の概念装置を導入した。すなわち、寝室や水回りを納める低層の『ハコ』と、それを覆うように広がる庇のある『フタ』=大屋根である。建ぺい率いっぱいに展開したこの二重構成が、周囲からの視線を遮りつつ、東側の眺望を大らかに獲得するための枠組みとなった。

空間構成と回遊性
『ハコ』には、寝室や浴室、ワークスペースといったプライバシー性の高い諸室を内包し、中庭を設けることで閉じつつも外部と柔らかくつながる場を実現した。その上層に至る半階分のスキップで空間は展開し、パノラマの眺望を得られるLDKとテラスへと至る。さらに半階上がればロフトやキャットウォークがあり、家全体に回遊動線が組み込まれている。

この旋回的な構成によって、居住者は段階的に外部との関係を変化させながら移動できる。低い天井に守られる場から、一気に視界が開ける場へ──その移ろいが日常的な体験のリズムとなる。猫が自由に歩き回るように、家族もまた気分や行為に応じて居場所を選び、住まい全体をめぐることができる。

コアの存在と家具的構成
建物の中心には構造壁としてのコアが置かれ、キッチン収納やトイレ、ピアノ置き場など多様な機能を収めている。この一点集中の構成は、家全体の安定を支えると同時に、回遊する動線を生み出す起点となっている。












また、スキップ構成を利用した階段状のソファやベンチ化したアイランドキッチンなど、家具的要素が空間に組み込まれ、段差がそのまま居場所となる。これにより、建築は単なる入れ物ではなく、住まい手の振る舞いを誘発する身体的な装置として機能している。
1階の空間






下階『ハコ』の部分は、客間、浴室、トイレ、寝室、ワークスペース、床下収納になっている。中庭が目隠しになっており、プライバシーが高い空間になっている。
夜景



この住まいは単に内部の快適性を追求しただけではない。大屋根としての『フタ』は、外部に対しては落ち着いた水平のラインを描き、街並みに穏やかな表情を与える。同時に深い庇は夏の日射を遮り、冬には低い日差しを取り込む環境装置として働く。
プライバシーと開放性を同時に満たすための「閉じながら開く」構えは、個人住宅でありながら都市的な景観の一部を形づくり、高台という文脈に応答する建築的態度を示している。



「フタ+ハコ」というシンプルな図式は、眺望とプライバシー、閉鎖と開放という相反する要素を調停し、段差と回遊によって住まい手に多様な居場所を与える。ここでは建築が単なる器を超え、暮らしを包み込みながら風景へとひらく、伸びやかで居心地の良い回遊のある住まいとなっている。
- data
SGA フタ+ハコ/回遊する住まい
基本情報
- 所在地
- 仙台市
- 主要用途
- 専用住宅
- 家族構成
- 夫婦+子供+猫
- 主体構造
- 木造 / 基礎 / べた基礎
規模
- 敷地面積
- 241.54㎡
- 建築面積
- 96.54㎡
- 延床面積
- 91.05㎡
工程
- 設計期間
- 2017年8月~2018年9月
- 工事期間
- 2018年10月~2019年3月
敷地条件
- 第1種低層住居地域
- 道路幅員 西6.0m東4.0m 接道14.452m
メディア掲載
写真
小関 克朗

















