HCM 二世帯で住む、巨木の住処

二世帯が共に暮らしながら個々の木陰(居場所)を見つける「居場所の森」

敷地は、仙台市中心部の細い私道に接する狭小地です。周囲を二階建ての住宅に囲まれ、斜線制限に加えて、隣家による日影や採光への影響も大きく、一般的な二階建てでは十分な光や視線の抜けをつくることが難しい場所でした。

しかし、この「狭さ」を単なる制約として考えるのではなく、横に広がれないのであれば、上へと空間を広げることを考えました。

建物の中央にエレベーターを置き、そのまわりに高さの異なる床を配置しながら、上へ上へと居場所をつないでいます。さらに塔屋と屋上テラスを設けることで、隣家の屋根を越え、その先に広がる空へと視線を開きました。

屋上まで上がると、仙台の街並みや青葉山の稜線、季節には花火も見ることができます。

周囲を住宅に囲まれた小さな敷地だからこそ、空へ向かって暮らしを広げていく。

中央に立つエレベーターを一本の「巨木の幹」に見立て、そのまわりに大小さまざまな居場所が枝葉のように広がる。それぞれの家族が、自分にとって心地よい「木陰」を見つけられるような住まいを考えました。   

カタチ と 街との接続


建物の外形は、上階が少し張り出したシンプルな形としています。

その張り出しによって、1階には軒下のような駐車スペースが生まれます。細い私道からいきなり室内へ入るのではなく、道路と住宅の間にひとつの中間的な場所をつくりました。

車を停める場所であり、家へ入るためのアプローチでもあり、雨の日には軒下として人を受け止める場所でもあります。

狭小地では、敷地いっぱいに建物を建てることで、道路に対して圧迫感のある表情になりがちです。

そこで、建物の足元には少し余白をつくり、道路から軒下、玄関、室内へと段階的につながる構成としました。

街に対して完全に閉じるのでも、大きく開くのでもありません。道路と住まいの間に適度な距離をつくることで、街の中に建ちながらも、家族が安心して暮らせる関係をつくっています。

狭小地の建ち方 — 巨木(EVコア)を巡る螺旋的構成


建物の中央には、ホームエレベーターを設けました。

車椅子を利用するご両親にとって、エレベーターは上下階を移動するために欠かせない設備です。しかし、この住宅では、それを単なる移動装置としてではなく、家全体をつくる中心として考えました。

一本の大きな木の幹のようにエレベーターを中心に置き、そのまわりを巡りながら、少しずつ高さの異なるスキップフロアを配置しています。

リビング、ダイニング、寝室、子どもの居場所、階段の途中の小さな場所。それぞれが完全に切り離されるのではなく、少しずつ高さと距離を変えながらつながります。

同じ家の中にいても、近くにいたい時もあれば、一人で過ごしたい時もあります。

特に二世帯住宅では、すべてを共有することだけが豊かさではありません。それぞれの世帯の生活リズムを尊重しながら、必要な時には自然に顔を合わせられる距離が大切になります。

巨木のまわりにさまざまな高さの枝が伸び、その下にいくつもの木陰が生まれるように。

エレベーターを中心に、それぞれ高さや広さ、明るさの異なる居場所をつくることで、二世帯が一緒に暮らしながらも、自分の時間を持つことのできる住まいを目指しました。



スキップフロアと居場所  — 「道」としての一階から屋上までの連続性


この住宅では、玄関からリビング、ダイニング、光井戸、そして上階へと、少しずつ高さを変えながら空間が連続していきます。

玄関を入って一つの部屋に到着するのではなく、家の中を歩きながら、次々と違う居場所に出会っていく構成です。

そのため、1階から屋上までをつなぐ動線そのものを、一本の「道」のように考えました。

道路から軒下の駐車場へ入り、玄関を通って、そのまま家の中へ。床や天井の仕上げも連続させることで、外から中へと風景が自然につながっていきます。

その道の途中には、家族が集まるリビングやダイニングだけでなく、階段の段差を利用して腰掛けたり、本を読んだりできる小さな居場所があります。

半階ずつ高さが変わることで、壁をつくらなくても、それぞれの場所にほどよい距離が生まれます。

特に中間にあるLDKは、上下に暮らす二世帯をつなぐ場所です。家族が集まることもできれば、それぞれの世帯が自分の場所へ戻ることもできます。

大きな共有空間をひとつつくるのではなく、家の中を巡る「道」の途中に、大小さまざまな居場所をつくる。

それによって、二世帯という家族の関係に合わせて、集まることと離れることの両方を受け止められる住まいとしました。 



一階の「道」と二階のプライバシー — 距離感のつくり方

1階は、家族が集まるリビングやダイニングを中心とした、比較的開かれた場所です。

道路や軒下から続く空間の流れを受け入れながら、大きな開口によって外の気配も感じられるようにしています。一方で、外から室内がそのまま見えてしまわないよう、視線の方向や開口の位置を調整し、街との距離を保っています。

2階には、寝室や子ども室など、よりプライベートな場所を配置しました。

勾配屋根の下に生まれる少し低い天井や、屋根裏のような落ち着いた場所を生かし、1階とは異なる静かな居心地をつくっています。

そして、その二つを中央のエレベーターがつなぎます。

必要な時にはすぐに会いに行ける。一方で、それぞれが自分の時間を過ごしたい時には、適度な距離を保つことができる。

二世帯が一緒に暮らすことを「いつも同じ場所にいること」と考えるのではなく、近づいたり離れたりできることを大切にしました。

家の中を螺旋状に巡る空間構成によって、家族の気配を感じながらも、それぞれが自分の居場所を持つことができます。

内部には、無垢材、タイル、パンチングメタルの階段など、異なる手触りの素材を使っています。

床の高さや天井の形が変わるたびに、光の入り方や素材の表情も変化します。小さな住宅の中でも、場所を移動するたびに少しずつ違う感覚を味わえるようにしました。

採光・通風・環境 — 光井戸とハイサイドライトの役割

周囲を住宅に囲まれたこの敷地では、どのように光と風を家の奥まで届けるかが大きな課題でした。

そこで、敷地の奥に「光井戸」をつくり、さらに階段室の高い位置にハイサイドライトと呼ばれる高窓を設けました。

隣家との距離が近い場所で、横から無理に光を取り込むのではなく、上から光を取り入れる考え方です。

高い位置から入った光は、吹抜けやスキップフロアを通りながら下階へ落ちていきます。そのため、道路や窓から離れた1階の奥にも柔らかな自然光が届きます。

光井戸は、単に明るさを確保するだけではありません。

視線が上へ抜けることで、実際の床面積以上の広がりを感じることができ、家の奥にいても空の存在を感じられます。

さらに最上部には屋上テラスを設けました。

周囲の住宅の屋根を越えた場所まで上がることで、空や風を身近に感じることができます。夏には外で過ごす場所となり、家全体に風を通すための出口としても働きます。

狭い敷地だからこそ、横方向だけでなく、上から光を取り込み、上へ視線を抜き、上へ風を逃がす。

縦方向を積極的に使うことで、密集した街の中でも明るさと開放感のある住まいをつくりました。

車椅子を利用するご両親にとって、エレベーターは便利な設備というだけではなく、この家で暮らし続けるために欠かせないものです。

一方、この住宅にはスキップフロアによるさまざまな高さの居場所があります。

段差があるからこそ生まれる楽しさと、段差に左右されず移動できる安心。その両方を成立させるために、階段とは別にエレベーターという移動の選択肢を用意しました。

それは同時に、二世帯の距離を調整する役割も持っています。

それぞれの生活リズムを保ちながら、会いたい時にはすぐにつながることができる。身体的な違いだけでなく、世代による暮らし方の違いも、建築によって無理なく受け止めることを考えました。

夜景

この住宅は、狭い敷地を「足りないもの」として考えるところからではなく、その条件だからこそ、どのような暮らしをつくれるかを考えるところから始まりました。

中央には、一本の巨木の幹のようなエレベーターがあります。

そのまわりをスキップフロアが螺旋状に巡り、リビング、ダイニング、寝室、小さなベンチ、光井戸、屋上テラスと、性格の異なる居場所が枝葉のように広がっていきます。

上からは光が落ち、風が抜け、家族の気配が上下につながります。

同じ家に暮らしながら、一緒に過ごすことも、一人になることもできる。

巨木の下で、それぞれが自分の好きな木陰を見つけるように、家族一人ひとりが、その時々に心地よい場所を選ぶことができます。

狭さを、縦方向の豊かさへ。

段差を、さまざまな居場所へ。

二世帯で暮らすことを、いつも一緒にいることではなく、互いの気配を感じながら、それぞれの時間も大切にできる関係へ。

この家は、都市の小さな敷地の中に一本の「巨木」を立て、そのまわりに家族それぞれの「木陰」をつくる住処です。

data

HCM 二世帯で住む、巨木の住処

基本情報

所在地
仙台市
主要用途
専用住宅
家族構成
夫婦+子供2人+両親
構造・構法
主体構造 / 木造 / 基礎 / べた基礎

規模

構造
2階建て+塔屋
最高高さ
9.225mm
敷地面積
124.17 ㎡
建築面積
74.49㎡ (建蔽率59.99%許容 60%)
延床面積
123.60㎡ (容積率99.54%許容160%)
1階
51.65㎡
2階
70.43㎡
塔屋階
7.94㎡

工程

設計期間
2019年 1月~2019年9月
工事期間
2019年 10月~2020年4月

敷地条件

  • 第2種中高層住居専用地域 準防火地域
  • 第2種高度地区  接道 6.81m
  • 道路幅員 西4.0m 駐車台数2台

メディア掲載

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小関 克朗